工場、倉庫などの賃借契約の留意点

工場、倉庫などの賃借契約の留意点

2020年11月26日 元田時男

 

これは随分前からの傾向であるが、中小企業がタイへ進出する場合、初期の投資額を節約するため、工業団地の中に用意されている賃貸工場、倉庫を借りる場合が多くなっている。その場合、賃貸物件のオーナーが用意している賃貸契約書の見本を見ると、賃貸期間3年以内のものが多いので、3年で契約されている向きも多いと思うのであるが、契約期間についてはBOIの免税金額の枠と関係しており、また、民商法典の規定とも関係するので、二つに分けて注意したい。

民商法典の規定について

民商法典(日本の民法、商法に相当)の538条は不動産の貸借については、文書による契約が必要であるが、貸借期間が「3年を超える場合」、その契約書が有効なのは3年間だけであり、3年を超えた部分については、契約書を登記しなければ効力がないと定められている。

工場を借りる場合、工場を3年で閉鎖することは普通ではないので、借り手としては、10年とか20年を希望するのであるが、貸し手としては、3年も経てば賃貸料を見直したいし、登記するには関係書類をもって、登記所へ行き、手数料も必要となるので、3年を超える部分については改めて契約を更改することは当然の希望とも理解できる。借り手としては、3年で退去を要求されたら困るので、3年後の契約更改を希望するのは当然であるので3年後(3年以内)の再契約を貸し手に約束させることがよく行われていることである。

それで、3年より長く借りようと希望するのであれば、3年を超える契約書作成、登記を貸し手に要求するか、3年後の契約延長を約束させることが、重要である。

ところが、「3年を超える」という契約は、次に述べるようにBOIの法人所得税の免税期間に関係してくるので、実際の契約書作成についてはBOIの見解、解釈を確かめておくことが必要となる。

なお、民商法典のこの条項は、個人で住居を賃借する場合にも不動産の貸借に該当するので適用されるということも付記しておきたい。住居用の場合は、ほとんど1年契約が多いようである。また、住居用の場合は、「1979年消費者保護法」(本HP法律和訳、その他に掲載している)の第35の2条以下「契約に関する消費者保護」の条項により、家主に一方的に有利な契約は禁止されており、同法により設置された「契約委員会」の告示により、契約のモデル条項が示されている。

BOIの免税期間との関係について

実は、BOIではタイ国地場の工場等で、BOIの奨励を受けていないものとの公平を保つために、法人所得税の免税期間に上限を設けている場合がある。たとえば2015年から適用されている奨励対象業種表は、各業種にAかBの符号が付されており、Aであれば、優遇の度合いによりA1からA4まで4種類に区分されている。そしてA1であれば、法人所得税免税期間は8年で、「上限なし」、A2からA4までは「上限あり」と指定されている。

この意味は、免税累計額が投資額に達したときに、まだ免税期間が残っていても免税措置は打ち切りということを意味し、業種がA1と指定されておれば、8年間より前に免税累計額が投資額に達していても、「上限がない」ので、8年間まるまる免税され、A2と指定された業種の場合、免税期間は8年であるが「上限あり」と指定されている。つまり、8年間の免税特典を付与されていても、6年目で、1年目から6年目までの、各年の免税額を累計して投資額に達しておれば、その時点で免税特典は切れて、7年目からは法人税を納税する義務が生じるのである。

この制度は、投資額は大きいほど実質的な免税期間は長くなり、上手く行けば、上述の例ではA2の場合、投資額を加減して、丁度8年目に免税累積額が投資額と一致すれば、付与された免税期間中まるまる免税となるのである。操業当初から投資額と利益に対する免税額の累計額を綿密に行えば、実質的な免税期間の予想は可能である。その場合、投資額を大きくすれば有利と判断すれば、何でも投資額に算入すればいいのであるが、参入できる範囲は定められている。その内容は、本HPの「BOI,工業団地について」の中にある、

「BOIの旧制度、新制度のあらまし」

**「BOI投資奨励策、条件等のあらまし(2015年から)の9.投資額の明細について」で確認されたい。

工場建物を新しく建設する場合は建設費用(賃貸より金額が大きいので免税期間までまるまる免税される可能性は高い)、賃借する場合は「3年を超える賃貸契約の契約額」が、投資額に含まれているのである。規則通り解釈すれば3年間の契約書では「3年をこえていないので」投資額には含まれないのである。

以上