(参考)タイの投資奨励策のあらまし
(旧制度、2014年末までに奨励申請を行った場合に適用)
2020年9月17日チェック 元田時男
1.はじめに
すでに別項で述べているように、2015年1月1日以降に投資奨励申請を行った場合には新制度が適用され、従来のゾーンによる特典に差をつけて、産業の地方分散を図った制度から、地域よりも高度な技術を優遇する制度に変えたのであるが、旧制度の特典は、制度が変わってもそのまま生きているのであるから、参考までに税制に重点を置いて説明しておきたい。
これにより、古い工場(2014年12月末までに奨励申請を行い操業している)が、どういう特典を受けているか理解できる。タイでは法律、政策が変わっても、変わる以前に認可を受けた者は、変わる以前の法律、制度が適用されるのである。
ここでは税制上の特典に絞って説明するが、特典のうち土地の所有、外国人専門家の入国、就労等税制外の特典については、新制度に引き継がれていることを付記しておく。
2.ゾーン分け
産業の地方分散を目的として、タイ国内を次の三つのゾーンに分け、バンコクより遠くなるほど特典を厚くし、低開発の22県では、もっとも厚い特典を付与することになっていた。
ゾーンによる制度は、1987年から採用されて、何度か改正されているのであるが、ここでは2000年8月1日からの奨励申請事業に適用された制度を説明する。2000年8月1日からのゾーン区分の変更は、第1ゾーンはそのまま、第3ゾーンの内ラヨン県とプケット県を第2ゾーンに移し、第3ゾーンを低開発県と最低開発県の2グループに分けたことである。ただし、ラヨン県には自動車関連の外国(特に日本)からの工場進出が多いところから、後述するように、第2ゾーンの工業団地に立地する場合は2009年12月末まで特別の措置が設けられていた。
全国の地域分け一覧
第1ゾーン | バンコク首都圏6県 | バンコク都、サムットブラカーン、サムットサーコーン、パトムタニ、ノンタブリ、ナコンパトム |
第2ゾーン | 首都圏周辺12県 | サムットソンクラーム、ラッチャブリ、カンチャナブリ、スパンブリ、アントーン、アユタヤ、サラブリ、ナコンナーヨック、チャチンサオ、チョンブリ、ラヨン、プケット |
第3ゾーン(1) | 右欄の36県 | グラビー、ガンペンペット、コンケン、ジャンタブリ、チャイナート、チュンポン、チェンライ、チェンマイ、タラン、ダラート、ターク、ナコンラチャシマー、ナコンシータマラート、ナコンサワン、ブラジュアブキリカン、ブラジンブリ、パンガー、パッタルン、ピチット、ピサヌローク、ペチャブリ、ペチャブン、ムクダハン、メーホンソン、ラノーン、ロッブリ、ランパーン、ローイ、ソンクラー、サケーオ、シンブリ、スコタイ、スラタニ、ウタラディット、ウタイタニ |
第3ゾーン(2) | 右欄の23県(低開発地区として指定) | ガラシン、チャヤプーム、ナコンパノム、ナラティワート、ナーン、ブリラム、パタニ、パヤオ、プレー、マハーサラカム、ヤソトン、ヤラー、ローイエット、シーサケート、サコンナコン、サトウーン、スリン、ノーンカイ、ノーングブアラムプー、アムナートジャラーン、ウボンラッチャタニ、ウドンタニ、ビンカン
(2010年8月3日にノーンカイ県から分離) |
3.ゾーンによる投資奨励特典の一般原則
次に、地域毎に付与される特典のあらましは以下の通りである。ただし、これは原則であり、業種によっては別の特典が与えられるものもあった。
(1)ゾーンごとの特典一覧(原則)
第1ゾーン
1.法人所得税
①工業団地内(注1) 3年間免税
②工業団地外 免税なし
2.機械輸入税 (注2)
3.輸出製品用原材料輸入税免税 1年間免税(延長可)
(第2ゾーン)
1.法人所得税
①工業団地内 5年間免税
②工業団地外 3年間免税
2.機械輸入税 (注2)
3.輸出製品用原材料輸入税免税 1年間免税(延長可)
(第3ゾーン(1))
1.法人所得税
①工業団地内
a:8年間免税、免税期間終了後5年間50%減税
b:輸送費、電気代、水道料の2倍まで収益を生じた日から10年間控除することができる
②工業団地外
a:8年間免税
b:インフラストラクチュアーの設置、建設費の25%を、収益を生じた日から10年の間に、純利益から通常の減価償却費に加えて控除することができる。10年の間にどの年からでも、数年にまたがってもよい。
2.機械輸入税 免税
3.輸出製品用原材料輸入税免税 5年間(延長可)
(第3ゾーン(2))
1.法人所得税
工業団地内外とも
a:8年間免税、免税期間終了後5年間50%減税
b:輸送費、電気代、水道料の2倍まで収益を生じた日から10年間控除除することができる。
c:インフラストラクチュアーの設置、建設費の25%を、収益を生じた日から10年の間に、純利益から通常の減価償却費に加えて控除することがで きる。10年の間にどの年からでも、数年にまたがってもよい。
2.機械輸入税 免税
3.輸出製品用原材料輸入税免税 5年間(延長可)
注1:ここでいう工業団地とは、IEAT管理下にあるもの、及び私立の団地でBOIの認可を受けたものを指し、それ以外のものは、ここでいう工業団地に入らない
注2:輸入税率が10%以上のものについて50%減税
4.ゾーンによる税制上特典の経過措置(ラヨン県等への特別配慮)
ラヨン県の工業団地、レムチャバン工業団地のほか第2ゾーンの工業団地について、2014年12月31日(2015年からの新制度が発足)までに申請される事業については、経過措置がとられた。その内容は複雑で一時的なものであるから、ここでは説明を省略するが、現在の新制度で東部3県(ラヨン、チョンブリ、チャチンサオ)重要視するのは、当時から自動車を始め重要産業が集積し、タイの発展にとって重要な地域と期待されていたのである。
5.重要産業と特別重要産業に対する奨励特典
以下の事業には特別な特典が与えられることになっていたが、その制度趣旨は新制度でも引き継がれている。
(1)農水産業、農水産品を原料とする製造業
(2)技術開発、人材開発にかかる事業
(3)公共事業
(4)環境保全にかかる事業
(5)その他特定の事業
特別重要産業は、BOIの奨励対象業種表に記載されていたが、農業関連、食品、金型、ジグ、鋳造、鍛造、工作機械、ソフトウエアー開発、研究開発、人材開発、環境保護などが指定されていいた。
(おわり)