障害者の雇用義務(健常者100人につき障害者1人)のあらまし
2020年12月15日元田時男
1.はじめに
近年、障害者の社会的支援は世界的にも非常な高まりを見せ、パラリンピックの開催などはその最たるものであろう。また、慈善団体に任せられていたものが、法律の制定、国家の積極的な支援も大きな流れで、障害者の社会復帰のための様々な支援が行われている。
日本では、戦後間もなく1949年に「身体障害者福祉法」が制定されているが、その後、障害者のための基本的理念と国、地方公共団体の施策の基本となる法律として1970年に「障害者基本法」が制定されている。
タイでは、遅れて1991年に法律が制定されているが、さらに2007年に「2007年障害者
生活向上促進法」(タイ語名称พ.ร.บ.ส่งเสริมและพัฒนาคุณภาพชีวิตคนพิการ)にとって替えられた。
また、障害者対策は幅広い分野でもあり、この法律は「社会開発・人間安寧省」、「交通・通信省」、「情報技術省」、「内務省」、「労働省」、「保健省」の共管となっている。
2.障害者の雇用義務(人数は労働省令で定める)
本法の33条、34条では民間および政府機関事業所では、障害者を従業員の一定割合雇用することが義務付けられている。それが果たせない場合、民間の場合、「障害者能力回復発展基金」に省令で定める割合の金額を納付しなければならない。雇用の人数については、労働大臣が省令で定めることになっている(本法33条)
そして旧法時代の1994年に公布された労働省令では200人に1人以上の障害雇用が義務付けられていたが、2007年の改正法では、旧法による労働省令に代わり新法による労働省令として2011年4月26日付新省令が4月29日付官報で公布され、新省令では、障害者雇用義務が従業員200人に1人以上から100人に1人以上となったことのほか、旧省令とはかなり異なっている。この省令はその後2017年以1部改正されているが、雇用義務の概要は以下の通り。
(1)民間では、健常者の従業員100人について障害者を1人雇用しなければならず、100人を超える場合、端数が50人を超えたら100人と追加することになっている(同省令3条1項)。健常者である従業員の人数は毎年10月1日の人数とし、民間については同一県に複数の事業所がある場合、全部を含めることになっている(同省令3条2項)。
(2)政府機関も同様に10月1日における健常者の公務員100人について障害者1人の雇用義務があるが(同4条1項)、人数の数え方については、政府部局、地方自治体、公営企業等ごとに定められている(同省令4条2項)。
3.障害者生活向上促進基金への納付金
障害者を規定人数雇用しない民間企業、政府機関については、後述の障害者に対する支援を行うか、または、義務のある年度の前年度の直近の労働者保護法による最低賃金の一番低い賃金の365倍に、さらに雇用しない人数を掛けた金額を基金に納付しなければならない(前出省令5条1項)。
旧省令では、毎年1月30日までに30日間募集の公告を行い、応募がないか、福祉局から30日以内に障害者の紹介がない場合、納付の義務は免れたのであるが、新省令ではその条文がないことに注意されたい。
そして、2007年障害者生活向上促進法の34条2項では、納付しない、もしくは遅延する、不足する場合、納付義務金額に年7.5%の利息を支払わなければならない。
4.雇用に代わる障害者への支援
「2007年障害者生活向上促進法」の35条では、政府、民間で雇用の意思がなく、民間で基金に納付金を納付しない場合、障害者に特別の支援を行わなければならないが、その内容については、2015年障害者生活向上促進委員会委員長(首相)名の規則が出されている(2009年規則を改正したもの)。それによると以下のような便宜を障害者とその保護者に与えなければならない。
①商品販売、役務提供の場所の事業権提供
②障害者の生活向上に役立つ販売等行為の場所、設備の提供
③6か月以上の下請の発注(物品の購入、生産委託など
④障害者への職業訓練
⑤障害者用器具の提供
⑥通訳の提供
⑦その他の便宜
以上については、詳細な条件が上記委員長の規則で定められている(同規則15条から37条まで)。
5.租税上の特典
これについては、法38条において、民間事業者が事業所で使用している従業員のうち障害者が60%を超え、雇用期間が180日を超える場合、法律により税制上の特典が与えられると定められている。そして、所得税(個人、法人)の特典の詳細が、2011年11月4日付勅令519号、および2011年6月1日付勅令499号において詳細が定められているので、会計事務所などでちょうさされたい。
(おわり)