タイ国の1979年消費者保護法の概要

タイ国の1979年消費者保護法の概要

2021年3月8日:元田時男

 

1.はじめに

商品、サービスが高度化、専門化するにつれ取引形態も複雑化し、高度な商品知識について行けない消費者を保護する動きが世界的に高まったのは1960年、1970年代からである。日本では1968年に消費者保護基本法が制定されている。タイでも1979年に消費者保護法が制定されている。ほかにも、タイ国では、消費者を保護する立場に立った法律として、1979年食品法、1967年薬品法、1992年化粧品法、2002年危険物資法、2008年工業規格法、など沢山ある。また、少し前の1997年憲法では、57条において消費者の権利は守られること、消費者保護団体の設置がうたわれているほか、2008年製造物責任法(PL法)も成立している。また消費者保護法により設立された消費者保護委員会の委員長は首相であり、消費者保護については行政も大きな責任を負っていることがうかがえる。

以下、1979年消費者保護法(1998、2013、2019年改正)の概要を紹介する。

2.消費者保護委員会および同委員会認定の団体による訴訟行為

総合的に立案、規制を行う機関として消費者保護委員会が設置され、委員長は総理大臣で、委員は内閣官房副長官、農業・協同組合省次官、総理府次官、交通通信省次官、経済社会ディジタル省次官、商業省次官、内務省次官、工業省次官、その他内閣が選任する学識経験者で分野ごとに2人以上、8人以下で構成される(9条)。

委員会の役割は概ね以下の通りである(10条)

(1)消費者の苦情の審査
(2)危険商品に対する対策を講ずること
(3)危険商品に関する広報を行うこと
(4)担当機関の監督、指導
(5)消費者の権利侵害に対して法的処置をとること
(6)内閣に対して提案すること

また、委員会の実施機関として消費者保護委員会事務局が総理府内に設けられている(19条)。また、民間の機関として消費者の苦情処理に当る消費者保護団体を指定することが定められており(40条)、団体には消費者からの苦情により、民商法典その他の法律による民事、刑事の法的処置をとる権限が与えられている(41条)。また、権限の実施に当っては、消費者保護委員会により定められた規則に従うことが規定されている(42条)。

また、本法の実施に当る担当官は内閣総理大臣が任命、本法に伴う具体的な規則等は内閣総理大臣が省令として公布することができるようになっている(8条)。

3.他の法律との関係

 冒頭1.で述べたように消費者を保護する目的を有する法律は多数あるのであるが、本法の規定は当該法の規定と重複、矛盾しない限り適用することができるが、各法の担当政府機関で意見が異なる場合、消費者保護委員会が最終的に裁定することになっている(第21条)。

 また、消費者保護に関する機関の間で合同会議をかいさいすることができる(第21/1条)。

4.消費者保護の方法

この法の趣旨は,商品知識も、法的知識も乏しい消費者を売手から守る手だてとして、以下の分野の専門家などによる特別委員会が設けられている。

(1)広告特別委員会
(2)商品表示(ラベル)特別委員会
(3)商品、役務の安全特別委員会(2019年改正で加えられた)
(4)契約特別委員会(1998年の改正により追加された)

そして、後述のように特別委員会がそれぞれの分野において法を守らせ、必要な場合特別委員会の規制により消費者を保護する方法をとることができる。

5.広告に関する規制

 以下の広告は消費者にとって有害なものとされている(22条)

(1)広告が虚偽に基づくもの、誇張されたもの
(2)消費者の誤解を招くもの
(3)直接、間接に法律に反し、文化に害を与えるもの
(4)公序良俗に反するもの
(5)その他省令で定めるもの
また、広告は省令の定めに従わなければならない(23条)。

6.安全に関する規制 

 危険な商品による損害に対する補償については、2008年製造物責任法(PL法)があるが、この法では、商品の扱い方、危険性について調査し、消費者に対して周知徹底することに重点がおかれている。そのことについて第29/4条、第29/5条において、調査、対応、広報とうについて詳細定めている。

7.ラベルに関する規制
 まず、ラベルを貼付しなければならない商品についてはラベル委員会が告示で指定することができるようになっている(30条)。
指定商品の以下のラベルについては以下の条件を満たさなければならない(31条)。

(1)真実を述べ、誤解を生じさせてはならない。
(2)製造者、輸入者の名称または商標、製造地または輸入地、商品の内容、輸入品の場合製造国を明記すること
(3)価格、量、使用法、推奨の言葉、警告、有効期限があるものは有効期限年月日などで、ラベル委員会が官報で告示する基準、条件に合致することが要求されている。

8.契約に関する規制

契約委員会が、契約を規制する商品、役務を指定することができ、その契約内容は一方的に売り手に有利であってはならず、公平なものでなければならない(35の2条)。

これに関連する別の法律として1999年公平契約法(日本の消費者契約法に相当)がある。

また、契約委員会が指定商品、役務の契約見本を作製した場合は、その見本に従わなければならない(35の3条)。 

9.その他消費者保護に必要な商品検査、試験など

消費者保護委員会は、特定の商品が消費者にとって有害であるという恐れがある場合、事業者に試験させて報告させることができるとうになっており、試験の結果により官報に告示して販売禁止を命ずることができる(36条)。

10.消費者の苦情、訴訟について

 委員会は消費者の苦情によっては、担当官を任命して民事、刑事裁判所へ提訴することができ(39条)、民間消費団体による同様の提訴も支援することができる(40、41条)。

 また、このHPの製造物責任法(PL法)の概要でも説明しているように、タイでも集団訴訟(クラスアクション)制度が導入され、民事訴訟法典が大改正されていることを付記しておきたい。本稿と合わせて、本HPの「タイでの事業について知っておくべきこと」の中の「その他事業法、民商法典」にあるので記事を参照されたい。

11.罰則

各種委員会、担当官の命令に従わない場合の罰則が定められている。例えは消費者保護委員会または専門委員会の命令に従わない場合、1ヶ月以内の懲役、もしくは、1万バーツ以下の罰金、または併科(46条)。誤認させるような広告を行った場合、3ヶ月以下の懲役、もしくは3万バーツ以下の罰金、または併科(48条)などがある。

(おわり)