タイ国の2017年取引競争法(独占禁止法)の概要について
2021年3月12日:元田時男
1.はじめに
この法律は「1979年価格統制・取引競争法」を分離して1999年に「取引競争法」と「価格統制法」とに分けたもので、その後、取引競争法は2017年に1999年法を廃止して、新しく「2017年取引競争法」として制定されたものである。
この法律は、食品、薬品など消費者に直接影響を与える品目のほか、工業規格法など消費者保護法の一連の関連法律により特定の企業が独占的な立場を利用して消費者に有害な行為を行うことを抑制することを目的としている。その意味で、1960年代にアメリカを中心に消費者保護運動の機運が高まり、アメリカでは有名なラルフ・ネイダー弁護士による自動車などの大手企業を相手に消費者のために訴訟を起こし、世界的に消費者保護運動が広がった60年代の動きに呼応したものといえよう。
日本では「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」が、終戦直後の昭和22年(1947年)に制定され、さらに市場支配のほか、政治的にも影響力を持っていた財閥が解体されている。
2.不当な市場支配の禁止、緩和措置
(1)以下のような行為を禁止している。
1)市場に大きな支配力を有する(具体的内容は取引競争委員会が定める)企業が市場を不当に支配する行動(第50条)。
2)不公平な競争を引き起こす企業合併(第51条)。
3)価格の統一、数量の制限など共同行為(カルテル)(第54条、第55条)。
4)並行輸入等行為の排除(第58条)
(2)緩和措置
以上のような支配行為、合併などの禁止事項について、事業者は事前に取引競争委員会に対し許可を求めることができ、委員会は条件を付すことができる。
3.取引競争委員会
(1)選考委員会による委員の選考
委員の任命は、他の法律による委員の任命とはかなり異なり、まず財務省、農業・協同組合省、商務省、法務省、工業省の5省の次官、NESDB、消費者保護委員会の2機関の事務局長、タイ国商業会議所、タイ国工業連盟の2団体の委員長、合計9人で構成される選考委員が設置される。そして選考委員会が30日間公報して候補者を募り、応募した候補者から委員を選ぶという順序となっている。候補者の資格は、第8条により、法律、経済、財務、経理、工業、経営管理、消費者保護、その他類似の分野における学識者、専門家、または10年以上の経験がある者となっている。
その他の資格としては、タイ国籍者で満40歳以上、70歳以下であることのほか、政治職、破産者、犯罪歴などは欠格事由となっている。任期は1期4年で、2期までである。
(2)取引競争委員会の権限
法第17条では15種の権限を列記しているが、その中で重要なものを挙げると以下である。
1)本稿2の(2)で述べた緩和措置申立の審査
2)後述の担当官の選任
3)第78条の本法違反行為により被害を受けた者の刑事罰告訴
4)第80条、第81条、第82条、第83条に基づく行政処分の審査決定
5)各種小委員会の設置
(3)取引競争委員会事務局
事務局は政府機関であり取引競争委員会および小委員会の業務を補佐し、主な権限としては以下のものがある。
1)事業者の違反行為を監視し、委員会へ報告すること。
2)本法違反の報告を受け、委員会へ報告する証拠を集めること。
3)一般大衆への広報
事務局の秘書長は、取引競争委員会委員長が委員会の了承を得て選任し、解任する。秘書長の1期4年で、継続して2期を超えないこと。
参考までに英文による事務局名称、所在地、電話を以下に掲載する。ウエブサイトは英文名称で検索できる。
Office of Trade Competition Commission
Car Park Building 5 (BC)Floor 5 Government Complex,Bangkok 10210
Tel:02-199-5400
(4)担当官
秘書長および事務局の一定の地位以上の職員で委員会が任命する。
以下のような権限を有する。
1)承認を召喚し、証拠を提出させること。
2)委員会の規則に基づいて、事業所で立ち入り検査すること。
4.損害賠償請求のための提訴
第50条(市場支配)、第51条第2項(合併)、第54条(共同行為)、第55条(合併)、第57条(市場支配)、第58条(並行輸入等排除)により損害を受けた者は、損害賠償を求めて提訴することができる。その場合、消費者保護委員会、または同委員会が消費者保護法に基づき認定した協会、財団が訴訟行為を行う。損害を知ったか、知りえた日から1年以内に提訴しなければならない。
5.罰則 省略
参考資料: Council of State Thailandの法令集より本法タイ語版
(おわり)