Q:弊社の現地法人には労働組合がありますが、このほどさらに労働者委員会というものができたと報告がありました。早速、労働関係法の該当部分を調べてみたのですが、その役割がよく分かりません。また労働組合とどう異なるのか、立法主旨がよく分かりません。
A:労働者委員会の役割は日本でかなり普及している「労使協議会」または「経営協議会」のようなものと理解していただければいいかと思います。本来、日本では「労使協議会」に関する法律はなく、労使の自由な話し合いで結成され、労働条件のみならず、経営、生産、人事、福利厚生など幅広く話し合うことによりお互いに協力関係を築くという役割を担っているのであります。欧州では古くから労働者の経営参加が提唱され、日本にも導入されてきたものです。
タイでは、労使の自由な協定に任せず、一定の枠を労働関係法での規定したところが日本と異なるところです。また、従業員50人以上の事業所で設置できると自由な設置にし、労働組合のような法人格も必要ではありません。
その役割は労働関係法50条で、使用者が最低3ヶ月に1回委員会を開催し、以下のことを協議することが定められています。
(1)労働者の福利厚生
(2)労使双方にとり有益である服務規程を定めること
(3)労働者の苦情の検討
(4)事業所における協調、紛争の解決方法の協議
これで見ますと(2)と(4)は元来、労働条件協約(タイの場合、労使間の協定は日本の労働組合法でいう労働協約、その他の労使協定と法的に異なるので労働条件協約と日本語で称している)で定めるべき筋合いのもので、労働組合の活動とダブっていますが、敵対的関係にある労働運動ではなく労使協調路線で話し合うということが労働条件協約とは異なると理解できます。また、議題に、日本では一般的である経営にかかわる問題が含まれていないのは、労働者から経営権にかかわる問題に口を出して貰いたくないという使用者側の意見が立法過程で作用したのではないかと推測されます。
しかし、51条では、「労働者委員会が正当な理由なく使用者の業務秘密を漏洩した場合、使用者は労働裁判所に対し当該委員の解任、労働者委員会の解散を求めて提訴する権利を有する」と定めているのは、矢張り、経営にも関与することを法が期待しているのか、前述の(1)から(4)までの議題に経営問題を省くとき、同時にこの51条も省くのを失念したか、または(1)から(4)までの議題においても企業秘密に接することができると判断したのか、51条の主旨はよく分からないのであります。ただ、使用者にとっては有利な規定でありましょう。
52条で、「裁判所の許可なき限り、解雇、減給、懲戒、委員の活動妨害および結果的に委員が働くことができないような行為を使用者が行うことを禁ずる」と使用者側には厳しい規定となっています。これは45条で「全労働者の半数を超える労働者が組合員であるとき、労働組合は労働者委員会の全ての委員を任命することができる」という条項と呼応したものと思われます。つまり、法では労働組合が要求書提出などの活動を行っているときに解雇するのは不当労働行為であるという121条の規定と関連し、労働者委員会委員も法的に保護しょうという主旨と思われます。
また、53条で会社側が委員に対して金銭的援助を与えることを禁止しているのも、日本の労働組合法2条の趣旨と同様で、労働組合と同じく労働者委員会委員も使用者の支配を受けて御用委員とならず、使用者とは一線を画して活動させようという主旨でありましょう。
以上、法をつぶさに検討してみると労働組合との差が判然としませんが、法は法でありますので、要は労使協調路線で労働環境を整えることを期待した規定ということができましょう。
(おわり)